会計検査研究
Online ISSN : 2436-620X
Print ISSN : 0915-521X
最新号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
会計検査研究
  • 森信 茂樹
    2024 年 69 巻 p. 5-11
    発行日: 2024/03/29
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

     第2次安倍内閣の下で安倍総理(当時,以下同様)は,民主党・自民党・公明党の三党合意によって決定された消費税率の引上げを,2度にわたって延期した。安倍総理が目指すデフレ脱却,その経済政策であるアベノミクスとの整合性がその理由である。安倍回顧録を引用しながら,社会保障・税一体改革として決定された消費税率の引上げと元総理の考え方を整理し検討を行った。

  • 西川 雅史
    2024 年 69 巻 p. 13-33
    発行日: 2024/03/29
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

     公共調達では,できるかぎり良質かつ安価に財を調達することが求められる。しかしながら,2000年代の日本政府は,品質を維持するためには価格を高くする必要があるとの立場から,落札価格が高くなるような制度改正を繰り返し行ってきた。公共調達の価格引き上げは,国民の租税負担の増加に直結するものであるから,安易に実施されるべきものとはいえない。OECDの統計によれば,日本の公共調達の対GDP比の値は2010年代を通じて約16%であるので,日本のGDPを550兆円と仮定し,政府の介入によって公共調達の落札価格が3%上昇する場合を考えてみると,調達額すなわち租税負担額の上昇額は約2.6兆円にもなる。また,そもそも,高価格によって高品質を導き得るという見立ては,検証されるべき未確定な仮説として残されている。わが国の公共調達における価格と品質とのトレードオフ関係を考察した実証分析は,Hatsumi and Ishii (2022, Japan & The World Economy 62)があるとはいえ,僅少なのである。

     本稿では,2011年4月から2015年9月までの相模原市の公共工事に関するデータを用いて,落札率(価格)と工事成績評定(品質)とについて定量的な分析を行った。そこでは,競争市場であれば当然に見込まれる「高品質の財は高価格である」という関係性が成立していないことが示される。単純に落札価格を引き上げても品質向上には寄与しないのである。その上で,発展的な考察を行い,指名競争入札に代わって一般競争入札を使用すれば,品質を維持しつつ価格を2.5%程度引き下げることができることを示す。また,過去の工事成績評定の良い企業へ発注するならば,価格水準を維持しつつ,工事成績評定を顕著に向上させることができることも明らかにする。

     公共調達で犠牲となった価格上昇や品質劣化などのステルスな負担増を納税者が認知することは難しい。研究者には,こうしたステルスな負担増を測定し,その情報を提供することが期待されていよう。

  • 原口 健太郎, 丹波 靖博, 芳司 真綾
    2024 年 69 巻 p. 35-58
    発行日: 2024/03/29
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

     2015年に発出された総務大臣通知に基づく統一的な基準の導入により,わが国の地方公共団体における公会計財務諸表の正確性・比較可能性は大きく向上したとされる。もしも,統一的な基準導入に基づき,公会計情報が利害関係者にとってより有用なものとなったとしたら,利害関係者は,公会計財務諸表作成部局に対し,より早期の開示を要請するであろう。これに伴い,地方公共団体には当該要請に応えようとするインセンティブ(早期開示のベネフィット)が生じ,導入前よりも公会計財務諸表を早期に開示しようとするはずである。

     本稿の目的は,上記議論に基づき,わが国の主要な地方公共団体がいつ公会計財務諸表を公表しているかを質問紙調査により把握し,統一的な基準の導入等により開示時点がどのように変容したかを実証的に分析することにより,統一的な基準の導入が公会計情報の有用性に与える影響について新たな知見を獲得することである。

     質問紙調査の結果に基づき,開示日と期末日との間の日数を被説明変数として重回帰分析を行った結果,次のことが明らかになった。第一に,統一的な基準導入以降,地方公共団体の公会計情報開示時点は有意に40日程度遅くなる。第二に,統一的な基準導入前に改訂モデルを利用していた団体の上記遅延はさらに顕著となる。第三に,統一的な基準導入後数年を経てもなお,導入に伴う遅延は少なくとも有意には解消されない。さらに,統一的な基準の導入前後を問わず,わが国の公会計財務諸表が,総務省がガイドラインで推奨する開示期間(期末日翌年度の9月末まで)に開示されている例は極めて少なく(約4.8%),開示時点は総務省の期待水準と大きく乖離している。

     本稿は,開示時点の分析を通じて,統一的な基準の導入と公会計財務諸表の早期開示との関連性の知見を明らかにするとともに,地方公会計全般にわたる重要な問題を提起するものである。

feedback
Top