高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
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特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
  • 岩永 雅也
    原稿種別: 特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
    2022 年 25 巻 p. 11-30
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     日本では,これまで成人の学習は高等教育から最も遠いものだと考えられてきた.それは,成人の学習が主に余剰時間をもてあます中高年の人々の「閑暇学習」と見られていたことが原因の一つであった.しかし,より大きな原因は,高等教育機関の側にあった.大学をはじめとする日本の高等教育機関は,従来そうした成人の学習ニーズに十分応えていけるだけの構造と機能を有していなかった.むしろ日本の大学,短大など伝統的な高等教育機関は,国際的に見ても成人学習者にとっては極めて閉鎖的なシステムであった.しかし,近年,成人の学習あるいは生涯学習に対する社会の見方は段階的に変化している.また,高等教育機関をめぐる社会経済的環境も大きく変わっている.伝統的に成人学習者に対して閉鎖的であった日本の高等教育も,次第に成人学習者に対する開放性を増していることには注目すべきである.本稿では,成人の学習と高等教育との関わりに注目し,あわせて最近の動向を追った.

  • 荻野 亮吾
    原稿種別: 特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
    2022 年 25 巻 p. 31-50
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿では,成人学習理論から見た際の,高等教育機関における成人学習者の特徴や成人学習支援の方向性を試論的に明らかにする.

     前提として成人学習理論の位置付けを確認した後に,以下の3点について論じる.第1に,成人学習者の特性や,成人の学習機会の規定要因,成人教育学への理解を深めることで,成人に対するより良い学習支援の方法を見出せることを述べる.第2に,経験学習論や変容的学習論等の構成主義に基づく成人学習理論を検討することにより,省察を生み出す方法や学習環境についての考察を行う.第3に,正統的周辺参加論や文化的・歴史的活動理論等の社会構成主義に基づく学習理論を整理し,地域コミュニティと連携・協働して行う学習の過程や,パートナーシップの質の評価というテーマについて論じる.

  • 塚原 修一, 濱名 篤
    原稿種別: 特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
    2022 年 25 巻 p. 51-68
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     生涯学習を主題とする特集のなかで,本稿では日本の企業における人材育成を扱う1).とくに高等教育機関など企業の外部でなされる職業教育訓練に注目するが,後述する理由で定着していない.ここではそれを前提に,国内の制度や事例を調査して普及の可能性を検討する.以下では,先行研究を整理して生涯学習政策を略述し(1章),労働市場の特徴と国内企業の教育訓練の動向を述べる(2章).ついで主な現行制度として大学通信教育,職業実践力育成プログラム,教育訓練給付を説明し(3~5章),国内の大学等の先進事例を紹介して今後の姿を考察する(6,7章).

  • OECD国際成人力調査に見る諸外国の特徴と日本の課題
    加藤 かおり
    原稿種別: 特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
    2022 年 25 巻 p. 69-88
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果に関するいくつかの報告では,日本の成人の成人教育への参加は,国際的に見て低調とされている.本稿は,特に大学の学士及び修士レベルの学位取得者に焦点を当て,その成人教育参加の状況やその参加者の実態をこの調査の主に背景調査部分のデータを用いて国際比較することにより,学位取得者の成人教育参加の特徴と課題を明らかにすることを目的とする.結論として,日本における学士レベルの学位取得者の参加状況と修士レベルの学位取得者の参加状況には,有意な差があること,学士レベルの学位取得者のうち,女性は学習意識やキー・スキルの習熟度の高さにもかかわらず,成人教育への参加が男性よりも低調であることが示された.これらは,成人教育への参加率が高い他の国とは異なる日本の特徴であり課題であると考えられる.

  • 特性としての〈制約〉と〈複合学習本位制〉
    濱中 淳子
    原稿種別: 特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
    2022 年 25 巻 p. 89-107
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿は,働く女性が取り組む自己学習の実態と課題を実証的に描き出すものである.質問紙調査データの分析から描かれたのは以下の3点であり,いずれも女性が抱える「悩ましさ」として提示される.第一に,約半数の社会人が成長を目的とした自己学習を試みているが,女性は男性に比べて学習に取り組んでいない.第二に,女性の自己学習者比率の低さは,就業形態や最終学歴,家族(子ども)といった個人を超えた要因によってもたらされたものだと理解される.この第二の点を「制約」と呼べば,第三の点は気後れにつながる悩ましさとして抽出された.つまり,女性の自己学習はペイするが,正規女性の場合,経済的効果を享受するには複数の学習に取り組む必要がある.本稿ではこれを「複合学習本位制」と呼び,その問題性を指摘した.

  • 岩崎 久美子
    原稿種別: 特集 大学は生涯学習社会に参加できるか
    2022 年 25 巻 p. 109-130
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,大学における成人への学習機会提供の課題について国際的動向を踏まえ論じることにある.大学は,大衆化の過程で青年層を対象にする同質なものから成人を含む多様性を内包するものとなり,それに応じ大学間は階層化し機能分化した.本稿では大学の変容に伴い,第一に生涯教育の概念が国際機関で唱道されて以降の大学における成人への学習機会提供の変遷,第二に大学における成人学習を捉える類型の整理,第三にアメリカ,スウェーデン,イギリスの三つの国に焦点をあてた成人の学習機会をめぐる経緯と現状を取り上げる.その上で,大学における成人への学習機会提供の目的が,公平性に基づく「社会的公正モデル」から,「人的資本モデル」に基づく雇用可能性へと世界的に収斂していく様相とそれに伴う課題を整理する.

論稿
  • 羽田 貴史
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 133-153
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿は,占領下の1947年から1951年にかけての大学管理法構想が,CI&E教育課,文部省,教育刷新委員会の対抗・協調関係のもとでどのように具体化されたかを,明らかにする.今までの研究は,占領文書の分析が不十分で,教育課内部の複雑な事情を検討していない.大学管理法案は,教育課高等教育班のイールズによる外圧から始まったにもかかわらず,日本側は,教育課首脳と協力しながら大学理事会法の制定を防いだ.イールズ案が撤回になった後,民主的に組織され,組合関係者も参加した大学管理法案起草協議会による法案作成という戦後改革でも稀な手続きで法案が作成された.

     法案そのものは国会で廃案になったが,大学自治を明確にする点で画期的な内容であった.すなわち,合議制機関としての評議会・教授会の権限を明確にし,執行機関としての学長・学部長の権限を定め,同僚制に基づく学内管理機関と商議会の設置による地域社会への責任の明確化,国立大学審議会による文部行政権のコントロールも意図した画期的な内容であった.

  • Higher Education誌における変遷
    高木 航平
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 155-175
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿は,高等教育研究における「Public Good」の概念に着目し,Higher Education誌上でPublic Goodを扱った論文の悉皆調査によって,70年代以降の研究動向を整理する.公共性は高等教育の規範的価値を検討するために重要な概念であるが,日本の高等教育研究では主要な研究テーマとして定着していない.70年代には主に高等教育計画における公的支出との関連から公共財として議論されていたPublic Goodは,90年代以降の市場化・産業化の進展に伴い規範的価値である公共善として広く論じられるようになった.本稿では特に2000年代以降の動向として,公私領域の複雑化に伴う公共財議論の困難,公共善に向けた高等教育の役割の検討,近年の共通財の議論を中心的にまとめる.最後に,日本での研究展開に向けた示唆を提示する.

  • 天野 智水
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 177-195
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     意思決定への教員の参加はいかなる功罪をもたらすのか.それは決定の領域によって,あるいは学長等によるリーダーシップの発揮ぶりという条件によって異なるのか.この課題を検討するため,部局長等を対象とした質問紙調査から得たデータを分析した.その結果,教授会が「教員選考」により強い影響力をもつ場合に「共同体意識」はより高いという正の関係に,一方でその「大学経営」への影響力は大学の「戦略的取組」や「全体最適」と負の関係にあることなどがわかった.また,リーダーシップは教授会の影響力よりも従属変数を説明できる度合いが高いことや,一部従属変数では両者の交互作用効果が有意であることがわかった.これらの結果から含意を読み取り提言とした.

  • 準旗艦大学の研究力成長のメカニズムを中心に
    胡 云潼
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 197-216
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     中国では,北京大学や清華大学などの旗艦大学が世界一流水準を目指すと同時に,準旗艦大学も顕著な成長を遂げている.その背景には,学科組織を対象単位とする研究基盤強化支援事業がある.本稿は政策に対する記述的分析をふまえ,データと事例を用いて,学科単位の支援スキームが準旗艦大学の研究力向上に結びつくメカニズムを解明した.その結果,以下の知見を得た.準旗艦大学は獲得した資金パッケージが旗艦大学と差がある状況の中で,資源を一部の学科に集中して,有力学科を効率的に生み出し,特定分野面で旗艦大学との格差を縮小し,世界水準に近づけることを実現した.結果的に,多様性を持つ準旗艦大学は国のイノベーションに寄与している.そうした試みは基盤経費が縮小する日本国立大学に示唆を与えられる.

  • 中尾 走
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 217-236
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,性別専攻分離がどのような要因によって変化してきたのかを明らかにすることである.性別専攻分離とは,性別によって選択する専攻分野に差異があることを言う.日本を含む先進国では,性別専攻分離が小さくなっているため,専攻分野内の男女の偏りも小さくなっているという解釈がなされてきた.けれども,実際には性別専攻分離の変化は,専攻分野内の男女差だけでなく,様々な要因によって変化することが知られている.専攻分野内の男女差が小さくなっておらず,その他の要因によって性別専攻分離が小さくなっている場合,女性の選択する専攻分野が多様になっているという解釈は誤解となる.

     そこで,本研究では,性別専攻分離の変化を5つの要因に分解し,どのような要因によって性別専攻分離が変化しているのかを明らかにした.分析の結果,2つの結論が得られた.1つ目が,専攻分野内の男女の偏りは実際に小さくなっており,性別専攻分離を小さくする効果があった一方,各専攻分野のサイズの変化によって,性別専攻分離が大きくなっており,2つの効果が相反する影響を与えていた.2つ目が,専攻分野ごとの寄与を明らかにした結果,それぞれの専攻分野で異なる寄与を与えており,時点によっても影響の方向や大きさが異なることが分かった.

  • 西村 君平, 呉 書雅
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 237-256
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,高等教育研究におけるRCTへの懐疑を踏まえて,RCTの方法論とは別の科学的認識論の観点から1)エビデンスの特徴,2)その構築の過程を明らかにすることである.本稿では科学的認識論に依拠したEBPM論である「活用のためのエビデンス論」とその基礎にある科学的実在論論争の知見を,高等教育研究への応用を視野に理論的に検討する.これにより1)EBPMのエビデンスには,抽象度の異なる概念により構成された階層的な理論とその理論によって架橋された文脈の異なる多様な経験的根拠が求められること,2)エビデンス構築のためには,理論の妥当性をその理論が構築されたときには想定されていなかった文脈において検証していく必要があることを明らかにする.最後に高等教育のEBPMの課題とその解消の展望について考察する.

  • Typological Approachによる学生下位集団の時代比較
    鎌田 健太郎
    原稿種別: 論稿
    2022 年 25 巻 p. 257-274
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,大学教育が再度拡大を始めた1990年代以降の学生と拡大前の80年代の学生と比較することで,学生活動の変化を実証的に捉えることである.アメリカの学生研究を参考にTypological Approachを用いて分析を行った結果,以下の3点が明らかになった.第1に,大学生活の諸活動に対する熱心さから,向学校群,不活発群,レジャーランド群の3つの下位集団が抽出された.第2に,90年代以降の学生の変化は,向学校群の増加と不活発群,レジャーランド群の減少という分布の変化によって説明された.第3に,こうした分布の変化は専攻分野の違いや大学の種別,性別などを統制した上でも確認された.最後に,不活発群を特定してアプローチすることが,大学教育のアウトカムの改善に寄与する可能性を議論した.

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